AgneiyaIV
第四章 虚無の聖女 
7.相克(1)


 サリカのもとに宰相が訪ねてきたのは、夜半をとうに過ぎたころだった。そのような時間に、宰相といえど女帝に目通りを願うのは如何なものか。アデルは不審げに眉を潜め、
「お引き取り願いましょうか」
 サリカに尋ねたが、
「会いましょう」
 彼女の一言で、ティルを執務室へと招き入れた。供も連れず、一人でやってきた黒衣の辺境伯は、まるで悪びれた様子もなく勧められるままに皇帝の前に立つ。着席した皇帝の様子をその赤い瞳で見つめていた彼は、
「ふぅん?」
 感心したように口元を緩める。
 エリシアもそうであったが、自分の何を見て皆は反応しているのだろう。サリカは不審に思ったが、敢えて尋ねなかった。それよりも、用件を訊く方が先である。皇帝の意を察してアデルが宰相に目配せを送れば、
「ああ、夜分に悪いね、陛下」
 全く以てそうは思っていない口調で、口上を述べる。ティルは暇乞いに来た、と言った。それは文字通り、ここを離れるということ。飯事遊びの宮廷ごっこをやめて、離宮を出て。アヤルカスに向かう。
「閣下」
 アデルは眼を剥いたが、サリカには判っていた。ティルがいつかここを離れることを――マリサがアグネイヤ四世を名乗り、挙兵したときから。この日がくることを覚悟していたかもしれない。
 ティルは、偽りの皇帝を捨て、真の皇帝のもとに行くのだ。それはそれで、止める気はない。
 ただ。
「私は、ルクレツィア一世です」
 サリカが静かに告げると、ティルは面白そうに笑った。
「だよね。だから、どうしようか、と思って」
 どうするか。
 真実のアグネイヤ四世にとって、邪魔者でしかない自分をティルがどうするか。判り切ったことである。自分の存在は、枷になる。神聖皇帝として冠を戴いている自分は、フィラティノアの有益な道具であると同時に、真実の皇帝にとっては厄介者でしかない。自分がいる限り、フィラティノアはアグネイヤ四世を認めない。
 故に、今も兵を退こうとしていない。
「殺しますか、私を」
 陛下、とアデルが声を上げる。彼女は目に力を込めて宰相を睨みつけた。そんなことは自分がさせない、と健気な侍女は全身から闘気を放っている。それはそれで嬉しいことではあるが。アデルとティルでは勝負にならない。サリカ自身が剣を取った処で、互角に戦えるかどうか。最近は、剣の稽古も疎かにしてしまっている。鈍り切った腕で、ティルを御すことができるのか。
「どうするかねえ? 殺したところで、偽物を立てられたらどうしようもないよね?」
 手を頭の後ろで組み、ティルは楽しげに笑った。
「できれば、離縁してもらうか――別の誰かに嫁に行ってもらうか。フィラティノアとは縁を切って欲しい」
 それが、ティルの依頼である。
 サリカは即座にかぶりを振った。
「できません」
 自分でも驚くほどの即答だった。以前であれば、ここで片翼のことを思い、身を引いたであろう。だが、今は違う。自分は、守るべきものを見つけた。
「それって、王太子殿下のため?」
「そう思って戴いて、結構です」
 言い切るサリカに、ティルは苦笑を禁じ得ない。
「愛に生きるの、アタシ。ってこと? 女帝陛下」
 これにはかぶりを振る。そういうことではない。が。
「良くも悪くも、女だね。陛下、やっぱりあんたは、皇帝には相応しくない」
 ティルは断じた。
「生涯、『男』を支えていく『女』だよ、あんたは。自分の足で歩く器じゃない。自分でもそれは判っていたんじゃないの?」
 彼に言われるまでもない。
 サリカは軽く唇を噛んだ。そうだ。その意味で、自分は皇帝には相応しくない。帝王の器ではなく、あくまでも『后』なのだ。夫たる君主を支え、守り、尽くしていく。それが自分には合っている。
 捻じ曲げられた運命は、もっと早く正されるべきだったのだ。出来なかったのは、自分の弱さのせい。
 サリカの揺れる眼差しに、ティルは苦笑を微笑に変えて、
「けどさ。仕事が駄目なら男、男が駄目なら仕事、って逃げ道作ってふらふらしている女よりかはずっとマシだわ。ってことで、オレは嫌いじゃないよ、あんたのこと」
 思わぬことを言う。嫌いじゃない――サリカは驚いた。てっきり、この宰相もルーラ同様自分を嫌っていると思っていたのに。
「ティル」
 初めてサリカは彼を名前で呼びかけた。照れくさそうに笑うティル、彼は、「己の分を弁えた人物が好きなんだよね」と彼らしくない呟きに似た口調で、告白する。
「まあ、でもさ。あんたが本当に守りたい人、傍にいたい人のために、こんなとこで足引っ張ってちゃいけないんだけどね。そこも判ってる?」
「そうね」
 頷いた。頷いて、サリカはちらりとアデルを見やる。
「あれを、お願い」
 その言葉でアデルは理解したのだろう、寝室に入ると、小箱を掌に包むようにして此方に戻ってきた。再びサリカの目配せで、アデルはそれをティルに捧げる。首を傾げて受け取るティル、蓋を開くとそこには、指輪がひとつ収まっていた。
「これを、アグネイヤ四世に」
 帝冠の代わりに、と。嘗て戴冠式ののちにオルトルートより献上されたものだ。三連の指輪、これを身に付けていた期間は非常に短い。即位後から逃亡生活を経て、フィラティノアに辿り着いた時まで。片翼と再会したときには、既に外していた。片翼に「アグネイヤ四世陛下」と呼びかけた際に、この指輪も渡そうと思っていたのだが。
「ああ、オレが余計なこと言っちゃったりしたからね」
 出来なかったのだ――サリカの暗い眼差しを前に、ティルはぽりぽりと鼻の頭を掻いた。
 これを身に付けるのは、真の皇帝たる片翼こそ相応しい。心よりそう思っていることを、ティルにも理解してもらえたことが今は嬉しかった。自分はここで、片翼がやり残したことを完遂しなければならない。片翼が嫁ぐときに抱いていた野望。それを、実現するために残るのだ。決して、枷にはなるまい。
「イリアも、同行してくれるのでしょう?」
 問いかけに、ティルは肩を竦めた。おやおや、とサリカは溜息をつく。イリアもかなり頑固なところがある。巫女姫が傍にいなければ、神聖皇帝の存在意義は無くなる。それと知って、彼女は同行を拒んでいるのか。
「――巫女姫は、直系から出るとは限らないからね」
 リィルのことを言っているのだろう。ティルの言葉が、やけに心に重くのしかかる。彼は、リルカインを真の巫女姫として祭り上げる気でいる。が、はたして白髪の巫女姫を、皆が認めるだろうか。巫女姫の容姿は、黒髪に瑠璃の瞳だ。それを言うと。
「髪なんて、幾らでも染めることが出来るでしょうよ」
 特に、白髪を黒髪に変えることは容易い。そうやって、偽りの色で染め上げた巫女姫を、アグネイヤ四世の傍らに置くのだ、この宰相は。いや、セルニダには、旧アルメニア時代よりその任に就く人物がいる。エルハルトだ。彼がいる限り、ティルは宰相とはなれない。それでも良いのだろうか、とは考えるまでもない。ティルは権力に執着するような男ではない。飄々として、掴みどころがなく、まるでセレスティンのようだと師の姿を目の前の少年に重ねる。

「この国は、任せたよ。ルクレツィア妃殿下」

 去り際、少年宰相はそう言った。サリカは小さく頷く。お元気で、――返す言葉はそれしか見つからない。ティルも、彼に従うアーシェルの民も、おそらくエルディン・ロウも。皆、フィラティノアを引き払うのだ。離宮が更に寂しくなる。
「私が傍にいます、陛下」
 こちらを見上げる青い双眸、アデルを見下ろし、サリカは「そうね」と呟いた。



「そう。残念ね」
 エリシア前妃はそう言ったきりだった。感傷も感慨もなく、「息災で」と別れの挨拶をする。随分と素っ気ない――それだけですか、とティルは余程情けない顔をしてしまったのだろうか。
「他に、何か?」
 エリシアが首を傾げた。
「いえ、別に」
 これしか答えようがない。
「王后陛下も、お元気で」
 騎士を気取ったわけではないが、エリシアの前に膝をつき、その衣裳に口付ける。こういうとき、ああこの人も帝王の器なのだとしみじみ思う。似ているのだ、真のアグネイヤ四世に。対峙するとそれを嫌でも実感する。
 床に伏している王太子ディグルに挨拶をすることは叶わなかったが、同じ部屋に滞在しているエリシアの今一人の息子は、
「……」
 何も言わず軽く手を上げたのみだった。彼もまた、こういうことに頓着しない性格なのだろう。存外、湿っぽくならずに済んだと、どこかさばさばした思いでティルは王太子の部屋を後にした。
 ここにいるのも、今日限り。夜が明ける前に、セルニダに向けて旅立つ。二度とこの地に戻ることはないだろうと思うと、そこかしこに愛着が湧いてくる。回廊でふと立ち止まり、さんざめく星々を見上げて、溜息を一つ。細められた赤き双眸に映り込むのは、星明かりと常夜燈の光。まだ、夜明けには程遠い。空は深く暗く、紫の闇に包まれている。



 宰相が去った。
 その意味する処は、フィラティノア内の神聖帝国が崩壊したということだ。ルクレツィア一世は、その臣下を全て失った。無冠の帝王、領地なき帝王、飾り物の傀儡皇帝として、フィラティノアに存在するだけ。不本意ながらも、片翼たるアグネイヤ四世と対峙せざるを得なくなる。
 それでいいのか、と。
 エリシアは心の中で義理の娘に問いかけた。サリカは優し過ぎる。一人で何でも抱え込もうとしてしまう。結果、自分だけではなく、周囲も壊れていくのだ。
 破壊を呼ぶ姫、混沌の姫――いつ何処でだったか、聞いた言葉が耳に蘇る。
「お袋」
 交替する、そう言ってジェリオが隣室から顔を覗かせた。エリシアは頷き、ディグルの手をそっと離す。やせ細った息子の手を掛布の中に入れると、
「う……」
 微かに声が聞こえた。
「ディグル?」
 意識が戻ったのだ。
「ジェリオ」
 医師を呼んできて欲しい、呼びかけと同時に、ジェリオは部屋を離れた。エリシアは再びディグルの手を取り、彼の名を呼び続ける。と、息子の手がエリシアの手を握り返した。その力は徐々に強くなっていく。やがて、ディグルが目を開き、
「――毒蜘蛛は?」
 唇が動いた。
 目覚めて第一声がこれか。エリシアは小さく息を吐き
「土に帰ったわ」
 彼の耳元に囁く。
 ここに搬送されて以来、混濁していたディグルの意識は、まだ纏まってはいないのだろうか。エリシアをルーラと思いこみ悲惨な告白をした息子の、ほつれた髪を整えてやる。あれは悪夢だ、ラウヴィーヌが今わの際に捏造した偽りだと幾度も眠る息子に語りかけてきたが。その効果はどうなっているのだろうか。
 ルーラがエリシアと国王との間に生まれた子供かもしれないということは、自分とディグルの胸に仕舞っておけばいい。ディグルも悪夢として忘れてくれればいい。ルーラは、このことは知らないのだ。おそらく、もうここには戻らぬであろう彼は、生涯知らない方がよいだろう。長きにわたって、兄を慰め続けていたなど、もしも彼が知ったら。
 ルーラは、命を断つに違いない。
 それだけは、させない。


 意識を取り戻したディグルは、すぐにサリカを求めた。夜明け近くだというのに、サリカは間をおかず王太子の間に駆け付け、
「ああ、ディグル」
 夫に駆け寄るとその手を取った。理想的な夫婦の睦まじさに、エリシアは眼を細めるが、隣室に控えたジェリオは面白くないだろう。彼はまだ、サリカに未練がある。正確には、サリカの身体に、と言うべきか。
「――できれば、ご夫婦で何処か空気の好い処で静養された方が宜しいでしょうな」
 医師の勧めに、エリシアも言葉を添える。
「そのほうがいいわ、サリカ。あなたもディグルと同じ病を得ているのですから」
 少しでも、王都より離れた方がよい。できれば、南。アヤルカスに近い場所に居を移した方がよい。ディグルの療養はこれ以上ない格好の口実となる。
「そう、ですね」
 サリカも快諾とはいかぬまでも、医師の言葉に従う素振りを見せた。彼女も王宮近くにいることを望んではいないのだろう。彼女がこの地に残ると言ったのは、ディグルの身を案じるからに他ならない。そう思っていたのだが。
「私が行き来しやすいように、なるべく近い保養地を探しては戴けませんか」
 医師への依頼は意外なものだった。エリシアは驚いて義理の娘を見る。サリカは、王宮に留まるつもりか。王宮と保養地と、双方を行き来することを望んでいるとなると――それは。
「王太子殿下の継承権を、消滅させるわけにはまいりません」
 王太子が没したのちに、その地位を継ぐのは従兄弟ウィルフリート。折しも彼は妻を亡くしたばかりだ。これでもし、ディグルが死ねば。寡婦となったサリカを娶ったウィルフリートが第一継承者となるだろう。そうならぬために、なのか。それとも、それこそを狙って、サリカはウィルフリートに近づくために?
「ご心配は無用です、義母上」
 エリシアの心の内を読み取ってか、サリカが微笑む。頼もしい貌だった。サリカの中にその片翼に似た――似て非なる強さを感じ、エリシアは軽く眼を見張る。この姫君は、いつからこんな貌をするようになったのだろう。
「アーディンアーディン、は如何かと」
 医師がぽつりと呟いた。そこであれば、王都からも近く、また、静養地としても最適な場所であると。もとは狩場としても用いられた離宮のため、
「守備を固めるには、最適ね」
 エリシアが付け加えた。かつて王妃であったころ、彼女も幾度かかの地に赴いた。ことが起こり、王宮が占拠された場合。拠点となるのはこの城ではないかと思っていたのだが、それもそのはず、アーディンアーディンは最後までフィラティノアに抵抗を続けた一族の本拠地であったのだ。これほどまでにオリアに近い、いわば喉元の短刀のような位置に最後の敵がいたなど――フィラティノアの統一は、どれほど危うさを秘めていたのだろう、とぞっとした覚えがある。


 ディグルの体調が整い次第、彼をアーディンアーディンに搬送する。
 その取り決めの中で、
「義母上も、ディグルの付き添いをお願い致します」
 サリカが懇願してきた。無論そのつもりではあったので、これを了承したのだが。
「あなたは? ほんとうに此方に残るつもりなの?」
 王太子妃は、こくりと頷く。この離宮を拠点として、
「フィラティノアを、押さえます」
 サリカの口の端が僅かに吊りあがる。蝋燭の明かりの中、ちかりと光る古代紫の瞳。エリシアは知らず息を呑む。サリカの姿が、イリアの持つ札、虚無の聖女に重なり。背筋を悪寒が走り抜けた。
「冷えて来ましたね」
 サリカの笑みが和らぎ、彼女は侍女に火を入れるように命じる。その慣れた口調が更に真のアグネイヤ四世を思わせ、エリシアは眩暈を覚えた。
 今、目の前にいるのは誰なのだ。
 サリカという卵の殻を破って生まれた、怪物なのではないか。ルクレツィア一世となろうとしているこの娘は――
(クラウディア)
 嫁いだ国を破滅に導く、滅びの娘。



 ティルが残していったもの。それは、信頼のおける医師と、もうひとつ。
「近衛、ですか?」
 夜明けと同時に、サリカは近衛師団舎に使いを走らせた。
 ティルは自身が去ったのちは近衛を頼れ、と言い置いていたのだ。その意味する処は、
「シェラが、暗躍していたそうよ」
 あの鴉の姫君が近衛に潜入し懐柔し、ルクレツィア側に取り込んだらしい。それは片翼の指示だという。近衛だけではない、多くの貴族も市民ですら、ルクレツィアを支持している。他人が築いた礎を利用するのは不本意ではあるが、片翼を、故郷を救うためにはこれが最良の手段である。
「陛下、陛下は、もしかして……」
 不安げなアデルの肩を抱き寄せ、サリカはあやすようにその背を叩いた。
「大丈夫。そのために、ディグルとエリシア妃は別の場所に移って貰ったのだから」
 彼らを安全な場所に逃がすこと、それがこの計画の第一条件である。出来ればイリアもアーディンアーディンに同行して欲しかったが、

 ――嫌よ。絶対に、嫌。

 彼女は頑なに拒絶した。勘の良い巫女姫のこと、サリカの考えを見透かしてのことだろう。あくまでも『妻』として傍にいるのだという彼女の意志は、簡単なことでは曲げられない。流石にサリカもそれ以上無理強いをすることはできず、イリアの残留を容認した。
 ディグルとエリシアは、近日中にアーディンアーディンに送らねばならない。それと同時に。
「王宮へ、白亜宮へ行きます」
 そこで自分は命を落とすかもしれない。それなりの覚悟は必要だった。
 それまで少し、休んでおかなければ。エリシアと交代でディグルの看護をしていた疲れが、いつ出てくるとも限らない。肝心なところで倒れては、元も子もない。サリカは仮眠を取る旨をアデルに告げ、寝室へと赴いた。

「あ」

 誰もいないはずのその部屋、しかし、窓際に人影があった。生まれたての陽光が浮かび上がらせる輪郭。それは紛れもなく。
「ジェリオ」
 彼は壁に凭れたまま、開け放たれた窓から庭を見つめている。サリカの入室には気づいているだろうに、こちらを見ようとはしない。その憂いを秘めた横顔は、どことなくルーラを思わせた。顔立ちは全く似ていない。似ていないはずなのに。血がつながっていると判った途端、彼の中にルーラの面影を探してしまうなど、自分はどうかしている。
 サリカは今一度ジェリオに呼びかけようとしたが、すんでのところでやめた。室内に流れる空気、それを壊したくない。彼との距離を、縮めたくない。
 そうして、二人は暫くその場に佇んでいた。
 先に口を開いたのは、ジェリオである。
「変わったな」
 何が? と首を傾げる。
 そういえば、このところ話をするたびに、皆に奇異な顔をされる。自分では何が変わったとも思っていない。いつもと変わりなく振舞っているはずなのに。
「言葉遣い」
「あ」
 それは、変わった。無理に使っていた言葉を、変えた。自身のことを「僕」と。言わなくなった。男子を装わなくなった。それだから、か。女らしくなった、とでもいうのだろうか。皆は。
「態度も、だ」
 ジェリオがこちらに向き直る。褐色の瞳が、サリカを射抜いた。
「態度?」
 これには、心当たりはない。なんのことやら、と目を細める。ジェリオは徐に此方に近づき、サリカの顎に手をかけ強引に仰向かせた。

「あんた、誰を演じている?」

 演じている?
 意味が判らない。彼にはそう見えるのだろうか、自分が自分ならぬ誰かを演じているかのように。


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